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ひとはなぜ戦争をするのか


著者 : A・アインシュタイン、 S・フロイト (浅見昇吾訳)
講談社学術文庫 2368
講談社 東京 2016
定価 600円(税別)










 同名のタイトルの本は、光文社古典新訳文庫から出ていて、既に読んでいた。しかし、こちらはフロイトの他の著作も含まれていたのはいいが、アインシュタインの手紙が入っていなかった。それで改めて本書を購入し読み直した。

 本書は、標題のことについてアインシュタインからフロイトに宛てた手紙とそれに対するフロイトの返書、そして訳者の後書き、解剖学者の養老孟司と精神科医の斉藤環の解説からなっている。

 アインシュタインは「国際連盟の国際知的協力機関から提案があり、誰でも好きな方を選び、今の文明でもっとも大切と思える問について意見を交換できることになりました。・・・『人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?』 これが私の選んだテーマです。・・・あなたなら、この障害を取り除く方法を示唆できるのではないでしょうか。」と考えた。

 アインシュタインは「国際的な平和を実現しようとすれば、各国が主権の一部を完全に放棄し、自らの活動に一定の枠をはめなければならない」と考えるが、現実はそうなっていない。そして「人間には本能的な欲求が潜んでいる。憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする欲求が!」と嘆く。

 フロイトはあれこれ言っていて整理しにくいが、結論的には「人間から攻撃的な性質を取り除くなど、できそうにもない!」 しからば「心理学的な側面から眺めてみた場合、文化が生み出すもっとも顕著な現象は二つです。一つは、知性を強めること。力が増した知性は欲動をコントロールしはじめます。二つ目は、攻撃本能を内に向けること。」「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる!」

 「人間の攻撃性を戦争という形で発揮させなければよい・・・ですから、戦争を克服する間接的な方法が求められる・・・人間がすぐに戦火を交えてしまうのが破壊欲動のなせる業だとしたら、その反対の欲動、つまりエロスを呼び覚ませばよい・・・だから、人と人との間の感情と心の絆を作り上げるものは、すべて戦争を阻むはず」とも言っている。

 この「絆」ということに関して、視点は異なるが、001「歴史認識を乗り越える」で紹介した小倉紀蔵が似たようなことを言っている。「半分フィールド・サッカー」という言葉を使い、自分のフィールド内だけにいたのでは試合にならない、相手のフィールドまで行ってこそ試合になり、自分の立ち位置が理解できる、と。

 思うに、考え方の異なる人々がいろいろな交流で「絆」を作り、それがひいては戦争を抑止する力となるのではないか。 


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