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告白


著者 : チャールズ・R・ジェンキンス 訳・伊藤信
出版社 : 角川書店 東京 2005
定価 : 本体1200 円(税別)










 著者のジェンキンスさんといえば、北朝鮮による拉致被害者の曽我ひとみさんの夫、元軍人で韓国駐留中に北朝鮮に逃げた、と言うくらいの知識しかなかった。

 本書には、彼の生い立ち、なぜ軍隊に入ったのか、なぜ韓国から北朝鮮に「逃げた」のか、北朝鮮での生活、曽我ひとみさんとの出会いと結婚、そして別れと再会、子供達のこと、日本での生活等が書かれている。

 北朝鮮での生活の悲惨さがあれこれ書かれているが余り悲愴さは感じられない。時として声を出して笑いたくなるような場面もいくつかあった。彼の性格だろうし、翻訳のうまさかも知れない。

 私が興味を引いた断片を少し引用しよう。

 「北朝鮮の国民の大部分は、飢餓、栄養失調、強制労働、そして裁判なしの投獄や処刑という危険に日常的に直面している。そのことを思うと、私は四十年近くにおよんだ滞在のほとんどの期間、それなりの自由と物質的にはまずまずの生活を享受できたと認めざるを得ない。」

 「北朝鮮を離れて日本へ移ってから、ひとみと私はシハムの話や、楽園百貨店で見た日本人夫婦の外見が石岡亨さんと有本恵子さんの拉致のいきさつや写真と一致することに気づいた。石岡さんと有本さんはそれぞれ一九八〇年と八三年にヨーロッパで誘拐されており、拉致実行犯は日航機「よど号」をハイジャックして平壌入りした赤軍派メンバーと関係のある日本人たちだった。」

 この文書は拉致実行犯が「赤軍派メンバー」とは断定していないが、日本人が日本人拉致を実行していたというのだ。

 「外国語大学はレベルが高いことになっていて、北朝鮮のエリートたちが集まっていた。例えば美花の親友の一人は金永南の孫娘だった。金永南は元外相で、最高人民会議常任委員会委員長。北朝鮮で最も長いキャリアとランクを誇る高官だ。しかし北朝鮮の上流階級はほかの国とは違うらしい。大学は窃盗の温床だったのだ。服や持ち物が盗まれるのは日常茶飯事で、ガビは週末に家に戻るたびに所持品をきれいに荷造りしていたほどだ。
 さらに、大学自体も決して豊かな楽園とはいえなかった。娘たちはしょっちゅう、各家庭からこれこれの品物の供出を求められたと言って帰ってきた。あるときは毎週月曜日に真ちゅうを二キロずつ持ってこいと先生が言ったという。」

 「・・・・・四十年間、、私の家族は肩身の狭い思いをしたはずだ。しかし訪米した頃には北朝鮮を脱出してからもうかなり時間もたっており、私の体験も正確かつ詳細に知られていると思っていた。だから米国を訪れてみて、憎悪に満ちた極端な非難の言葉を浴びせる人がいるのは意外だったのだ。正確に言えば、彼らが言った言葉そのものより、私を批判する理由が意外だった。彼らはこれまでの私の体験といきさつについてあまりにも無知だったのだ。」

 「今一番何を望むかといえば、ひとみと一緒に佐渡で幸せな日々を送っていくことと、娘たちが将来あらゆる可能性を十分に生かし、幸せで充実した人生を歩んでくれることだ。」

 タイトルの「告白」というのが気になるが、原題は「To Tell The Truth」ということらしい。本書の内容は何か秘め事を「告白」するということではなく、「事実はこうだ」という感じである。 


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