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人はなぜ争うのか

 進化と遺伝子から考える
著者 : 若原正巳

新日本出版社 東京 2016
定価 1700円(税別)










 この本は、正直期待して読んだ。だって、前回紹介した本が「ひとはなぜ戦争をするのか」というタイトルだったので、「それはヒトは戦争する遺伝子を持っている」ということかも知れないと思ったからだ。

 本書はヒトを全宇宙から遺伝子まで、マクロからミクロのレベルまでの人間の位置を解説している。

 肝心の「争い」については「・・・ だから生物学的には、ヒトには『争う遺伝子』があると言っていいだろう」という。

 ただそれは「アリやハチなどの昆虫と同列に見ることはできない。」「つまり人間社会には、他の生物とは別の社会法則がある。ヒトは生まれつき生物として持っている行動パターンを変え、新しい社会を切り開き、よりよい世界をつくることができる。それが他の動物とは決定的に違うヒトの能力だ。」

 「人は生物学的に言って『争う遺伝子』を持っているとはいえ、その発現を抑えることができる。社会的・政治的にいえば、民主主義を通じて多数派を形成し、国の仕組みを改革し、平和な世界を作りだしていくことができる。そうした運動を全世界に広げれば、戦争やジェノサイドを抑えることができるだろう」という。

 この結論は、フロイトの「文化の発展を促せば、戦争の終焉へ向けて歩み出すことができる」と同趣旨だと思う。

 私の読後感としては、新しい題材を使ってはいるが80年以上も前のフロイトの域を出ていない。


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