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拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々


著者 : 蓮池 透

講談社 東京 2015
定価 : 本体 1600円 (税別)










 著者の蓮池透さんは前書021で紹介した拉致被害者の蓮池薫さんの実兄だ。薫さんの「拉致と決断」に比べると何とケバケバしいタイトルだことか。きっと出版社に乗せられてこのようなヤバいタイトルにしたのだろうと思った。しかし、読んでみると実際ヤバい実話があれこれ紹介されている。

 全てではないが、政治家が国民の利益に反する行動規範で動いていることは薄々知っている。しばしばマスコミで政治家の倫理性が取り上げられている。拉致問題でもそのようだ。ので、蓮池透さんが悔しい思いをした安倍晋三や他の政治家のことはここでは書かない。本書が政治家を批判的に取り上げているだけなら、本書の価値は半減する。

 一方、我々がよく知り得ない「家族会」「救う会」とはいったい何なのか。私が驚いたことを一つだけ紹介したい。

 それは、蓮池透さんが家族会から「除名」されたというのだ。人の集まりなら多かれ少なかれ意見の違いはどんな組織にでもあるだろう。しかし、拉致被害者の家族となればその数は限定されるし、誰でも入れるわけではない。「除名」とは尋常ではない。何があったのか、その大まかな流れは次の通りだ。

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 「家族会」は、結成以来「救う会」の影響を受け、次第に右翼的に先鋭化したというのは先述の通りである。署名用紙のタイトルが、「拉致被害者の救出を訴えます」から「拉致被害者救出のため北朝鮮に経済制裁を」に変化したことからも、それは明かである。
 また、日本政府の北朝鮮に対する食糧支援に反対して外務省前で座り込みを敢行したり、自民党本部への抗議活動も行った。私もその一員として活動していたのは紛れもない事実であるが、二〇〇二年以降、転機が訪れた。
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「いっていること、やっていること、そのすべてが右翼そのものじゃないですか」という指摘に反論することはできなかった。
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 それから私は、「北朝鮮と対話、そして協議を」「経済制裁は武力行使と平和的解決のあいだにある方策、それも極めて武力行使に近い。しかるに(経済制裁は)わが国にとって最後の手段であるのだから被害者救出に直結する戦略的なものであるべきだ」と訴え始めた。
 すると、とりわけネット上では、「変節者」「国賊」「北の代弁者」「売国奴」との誹謗中傷が相次いだ。
 確かに私は態度を変えた。しかし、ここで断っておきたいのは、それが決して弟が帰ってきたという理由からではない、ということだ。もし、それで事が済むのであれば、「黙して語らず」がもっとも楽な方法ではないか。
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 小泉政権時代から「小泉再訪朝より経済制裁を」と訴えていた「家族会」と、北朝鮮との対話を主張する私のあいだには、完全に亀裂が入ってしまった。これは明かだった。
 「あなたの昨今の主張は、我々の総意とは異なるものだ。即刻止めるか、もう一度、総意を確認せよ」という主旨の配達証明。私は、「総意とは拉致被害者の救出ではないのか。その方法論には多様な意見があるのは自然ではないか」という反論をしたためた。
 しかし、意見は噛み合わなかった。しばらく放置していたのだが、突然「家族会」は「蓮池透の退会を決議」という不可思議な声明を出した。
 実際には「除名」であるにもかかわらず、「退会」とはどういうことか? それは自身が申し出るものではないか? と甚だ不愉快ではあったが、「私を排除することが、拉致問題の早期解決につながるのであれば、甘んじて受け入れる」と回答した。二〇一〇年のことである。
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