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友罪


著者 : 薬丸 岳
集英社文庫 : 集英社 東京 2015
定価 : 本体 830 円+税










 問題の所在は何だろう。まだよく整理できないでいる。どれだけ考えたら整理できるか分からないので、とにかくこんな本がありました、ということで本書を紹介し、簡単に感想を述べる。

 1997年神戸連続児童殺傷事件、犯人の少年が名乗った名前から「酒鬼薔薇聖斗事件」とも呼ばれる事件があった。本書はそれにヒントを得たと思われる内容である。

 殺人犯の少年鈴木が成人し、医療少年院を仮退院してとある町工場に就職した。同期に二人就職したうちの一人だった。もちろん過去の経歴は隠したままだ。

 同期に就職したもう一人の青年益田との交友が深まる。そして、少年院で母親代わりをしていたというサポートチームの女性弥生とのつながりもあった。ストーリーは職場での人間関係、そして弥生との絡みで進行していく。最後の結末は、鈴木の過去を知った益田が週刊誌に情報を流し、それで傷ついた鈴木は失踪、益田が某月刊誌に手記を投稿し反省の弁を述べるところで終わる。

 率直に言って不愉快な小説であった。「犯人」に対する不愉快ではない。作者に対する不愉快だ。登場人物を通して出てくる言葉が、私には薄っぺらに感じられた。特に、本書の中心人物である鈴木、益田、弥生の描写が問題だ。小説とはいえ、重大犯罪を題材としたものだ。ストーリーの展開を過去の事件にヒントを得ただけでは面白くない。私としては、もう少し登場人物の心理描写を深めてほしかった、というか、そこにどんな「人間性」があったのか、なかったのか、それが感じられなかった。

 作者の創作意図がよく分からなかった。おおよその人が思いつくような言葉しか出てこない。もう少し何かをえぐり出してほしかった。 


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