目次に戻る
 




拉致問題を考えなおす


著者 : 蓮池透、和田春樹、菅沼光弘、青木理、東海林勤
出版社 : 青灯社 東京 2010
定価 : 1500 円+税










 本書は2010年の出版でもう8年が経過している。拉致された五人とその家族は戻ってきたが、「表面的」にはその後何の進展もない。むしろ日朝関係は悪くなっているようにも思う。なぜ行き詰まっているのか、その打開策を提案しているのが本書である。

 安倍首相は、対話のための対話ではダメだ、圧力あるのみ、拉致問題の解決なくして日朝の国交正常化はない、というような論調で、対話路線を拒否し、力ずくで北朝鮮を交渉のテーブルに引き出そうとしている。これって、私には首相の態度も「暴力的」ではないかとさえ思える。

 圧力≒力≒武力で国際紛争が解決できるのであれば、国際間の紛争はもはや存在しないはずだが、現実はそうなっていない。これでは解決できないのだ。

 日本国憲法も第9条第1項で「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と謳ったのだ。この条文を改めて読んでみると、日米韓の軍事演習は「武力による威嚇」であり、憲法違反ではないだろうか。

 さて、本書の結論めいた件を引用しておこう。
***** 214ページ (和田春樹)
 5 交渉するためには国交正常化しかない

 拉致問題の解決をすすめるためには、北朝鮮と交渉しなければなりません。核ミサイル問題についても交渉して解決するしかありません。歴史の清算も同様です。北朝鮮との間にあるすべての問題を解決するためには外交交渉をするしかないのです。
 ・・・・・
 日本のバーゲニング・パワーは経済協力にあります。国交を樹立して経済協力の交渉と実施によって、北朝鮮の核開発にブレーキをかける、そのようにバーゲニングを進める、それ以外にありません。それは日本だけができることです。アメリカにも韓国にもできません。
 北朝鮮をめぐる情勢が緊張を高めれば高めるほど、日本が北朝鮮と国交を結ぶ必要性が高まるのだと考えます。それ以外にわれわれの進む道はありません。
*****

 経済的な問題に関しては次のようなことが考えられる。私はこれを読んでハッとしたのだが、北朝鮮との国交が樹立すれば日本には、巨大とまではいかないが、大きな市場が手に入る。
***** 131ページ (菅沼光弘)
 5 朝鮮市場をめぐる国際戦
・・・・・
 これは忘れてはいけないことですが、朝鮮半島というのは、われわれの植民地であった。・・・・・朝鮮半島全体のソフトもハードもインフラは全部メイドインジャパンなのです。
・・・・・
 そこで今、北朝鮮と日本が国交正常化をするとしたら、韓国どころの話しではない。今はほとんど動いていませんが、北朝鮮の産業のあらゆるものは、昔日本が作ったものなのです。そこへ日本から何兆円かのお金が行く。国交正常化を結ぶと、たちどころに北朝鮮は日本経済に組み込まれる。ということは朝鮮半島全体が経済的には再び日本の影響下におかれていくのは明かです。・・・・・
 ということになりますと、日朝国交正常化というのは、つまるところ経済的にいいますと、再び朝鮮半島全体が日本の影響下に入るということです。こんなことは誰も許せない。アメリカは絶対に許さない。ロシア、中国でさえも認めない。韓国ももちろんでしょう。だから米朝国交正常化の前に日朝国交正常化をするというのは、アメリカは絶対にそれを許さない。この日朝国交正常化は核ミサイルの問題と非常に深い関係があると申し上げましたけれども、同時に世界の金融危機、恐慌の中で新たな市場が求められている。そのとき北朝鮮といいますと、発展の可能性のあるところなのです。これまではゼロなのです。マイナスなのです。だから、今、ヨーロッパの企業がどんどん入っています。
*****

 反北朝鮮のプロパガンダに拉致問題が利用されているのが悲しい。 


目次に戻る